片田舎から哀をこめて

野山を駆け回る程の自然もなく、天を貫くようなビル群もない。中途半端な片田舎からお送りします

東京旅行小話

 このブログはリアルタイムで書いた記事やら高校時代を回顧して書いた記事やら、果ては中学時代の思い出話だとか、時系列がぐちゃぐちゃになってしまいがちで、それは筆者的に非常に反省しなければならない点ではあると思うのだが、今回の記事は先日の東京旅行、つまり筋少の30周年記念ライブやらstarmarieのツアーファイナルに参加した、6月21日から6月23日の旅行のちょっとしたはみだし小話である。

 

 6月21日から6月23日と書いたが、その出来事が起こったのは6月21日の夜、筋少のライブが終わってホテルにチェックインし、ライブレポートをあげ終えた深夜1時くらいのことである。僕は狭い格安ビジネスホテルのごわごわしたベットに寝転がり、スマホをいじってブログのアクセス数等を見ていた。何の前触れもなく事件が起こったのはその時である。
 耳をつんざくようなけたましいサイレンの音が、天井に設えられたスピーカーから発せられたのだ。


「ファーン!ファーン!」


 無理矢理文字におこしてみるとどうにも陳腐で阿呆な感じの音になってしまうのだが、その時の音ときたら、高すぎずかといって低すぎず、音量だけはバカにでかい、いかにも人の不安を煽る為だけに作られたような音であった。そんな音を聞いてしまった極度のビビりである僕は固まった。何が起こった?心臓の音は急転直下の早さでドクドクドクドクと脈打った。そうしてベッドに横たわったまま、上半身を捻った状態で数秒。サイレンのループが3、4回程続いたところで、あらかじめ録音されたのであろう、やけに落ち着いた、siriのような機械の声が以下のようなことを喋った。

 

「一階の火災報知器が作動しました。係の者が確認しますので、今暫くお待ちください」

 

 んで、サイレンのループがまた始まった。僕はこの音声を聞いたとき、緊張が高まったのと同時に、心臓の鼓動が少し落ち着くのを感じた。火事かもしれないというのになぜ落ち着いたというのか。しかし読者もその場にいれば分かる。


「あ、こりゃ誤報だな」


 僕は直感的にそう悟ったのである。何故か。まず一つはこの寝転がった状態からでも見える窓から、階下をのぞき込んでも火らしき明るさが見えないこと。もう一つはこの部屋に入った時に、壁に掲示してある注意書きに次のようなことが書いてあったのを覚えていたからだ。


『シャワーを浴びる際は必ずシャワールームのドアを閉めて下さい。火災報知器が誤作動する可能性があります』


 恐らくシャワーで出る湯気程度の煙で作動してしまう程敏感な報知器なのだろう。もしこれに気づかずにタバコなんて吸ったり、少しでも煙が出るようなことがあれば一発アウトというわけだ。そして更にもう一つ、論理的根拠ではないが、僕はなんとなく、勘で大丈夫なのではあるまいかと思ってしまったのだ。ちょっと前に鳴ったJ アラートも北海道の上を通り過ぎただけだったし、緊急地震速報なんかが当たったためしは少なくとも僕の周りではない。東日本大震災の時でさえ、あの片田舎では震度5強以上の地震が起こることはなかった。ま、今回も大丈夫でしょ、てな具合に僕は捻っていた上半身を元に戻した。要するに、僕は平和ボケしていたのだ。故に、次にスピーカーが発した音声に、僕は度肝を抜かれた。

 

『一階で火災が発生しました。皆様、慌てず、落ち着いて避難してくださファンファンファンファンファン!!!!!!』

 

 いや、まずあんたが落ち着けってーの。ちなみに最後のは警報の音である。先程の『ファーン』という音よりも警戒レベルが幾分か上がったことを知らせるその音に、僕の心臓は再び早鐘のように脈打ったのだった……。などと思っている場合ではない。マジで火事のようなのである。しかもその放送の通りならば火災の場所は一階。僕が今いる部屋は二階。つまり、この真下が燃えているというわけで、このままここにいれば僕はこんがりサクサクいい塩梅になってしまう。それだけはごめんである。幸いにもその時、不精な僕は着替えずに私服のままだったということもあり、慌てながらもいつも持ち歩く肩掛けバックをひっつかむだけで部屋の外に出た。

 

 廊下は最早パニック状態であった。濡れそぼった髪のまま館内着の浴衣を着ている人とか、眠気眼のまま、パンイチで部屋から飛び出してくる人等々。エレベーターのある方向に向かって、皆一斉に駆けだしている。しかし、どうしたことだろうか。エレベーター前には人だかりが出来ていた。僕もその人垣の後ろへと行ってみると、どうにもエレベーターが動かないらしい。混乱を避ける為か、こういった非常時の場合は止まる仕掛けになっているようなのである。しかしそれが更にパニックを加速させているようで、かく言う僕もあの時は本当に焦っていた。どうやって逃げればいいのか。このまま皆仲良くあの世でいい塩梅か?そう思っていると、


「皆さん、こっちこっち!」


 後ろの方で叫ぶ声がする。見ると、濡れそぼった髪の青年が、緑色の非常灯を指さして叫んでいるではないか。おお、そしてその下にあるのは非常口ではないか。エレベーターがなければ階段を使う。そんな当たり前のことに何故気がつかなかったのだろうか。ともかく、僕含め周りの客数名はその非常口へと向かった。


 非常口の扉を開けると外に出た。無骨な、いかにも緊急時用といったふうの階段が、下から上からドタドタごつごつと音を立てていた。恐らくホテル中の人間がこの階段を使って下へ降りているのだろう。僕と数人の客もその人波の間に紛れ、地上を目指して降りていった。

 

 さて、話は変わるが物語には起承転結という鉄則があって、ブログにおいてもこういったストーリーを語る上においては、その鉄則を踏襲しておけばなかなかに面白いものが書けるのである。それをふまえて上記の記事を読むとだ、今「承」の部分にいることが分かるだろう。鉄則上、次にくるのは「転」。つまりこのストーリーの最重要、最も面白い部分なのである。例えば、地上に降り立てばそこは既に火の海。命からがら逃げだしたはいいものの、そこで一条の悲鳴。
「誰かー!!!まだ子供が中にいるのーー!!!早く助けてーーー!!!!!」
 それを聞いた筆者が見る前に飛べの座右の銘に従い、自ら再び火の海へ……。なんてことがあるから面白いのであり、わざわざ文字におこす価値のある文になるわけである。しかし、実際はというとだ。この話は起、承、結で終わってしまうのである。即ち、僕が階段を降りて外に出た数十秒後にはオチが控えており、引いてはこの記事は終わってしまう訳である。それではあんまりにあんまりな記事になってしまうので、こうしてメタいことをずらずら書いて結末から逃げてしまっているのである。これは本当に筆者の悪い癖であるといえば悪い癖ではあるが、筆者の持ち味といえば持ち味なので、このスタイルを確率していく所存である。では、続きをどうぞ。

 

 階段を降り終えてコンクリートを踏みしめると、ようやっと心臓が落ち着いてきた。ホテルの玄関が見える。よく見るとそこにフロント係らしき人が立っており、こちらの非常階段から降りてくる人達に向かって何か叫んでいるではないか。

 

「………せ…………ん!!……うで………………!!」

 

 ここからではよく聞こえないが、もしかして避難場所の誘導とかだろうか。僕は声に向かって近づいた。

 

「すい…………ぇん!!ご……でえええす!!」

 

 もしかしたら危険なのでホテルに近寄らないで下さい、とか言ってるのだろうか。もしそうだったとしたら一刻も早く引き返さねばならないが、いかんせん声が聞こえなければどうしようもない。僕は更に声に近づこうと、もう数十歩歩みを進めると、ようやっと何を言っているのか判然とした。

 

 

「すいませえぇん!!誤報でえええす!!」